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大腸菌(だいちょうきん, Escherichia coli略してE.coli)は、グラム陰性の桿菌で通性嫌気性菌に属し、環境中に存在するバクテリアの中で主要な種の一つである。 この菌は腸内細菌でもあり、温血動物(鳥類、哺乳類)の消化管内、特に大腸に生息する。 バクテリアの代表としてモデル生物の一つとなっており、各種の研究で材料とされるほか、遺伝子を組み込んで有用な化学物質の生産にも利用される。 腸内に生息する菌であることから、この菌の存在は糞便による水の汚染を示唆し、河川、湖、海水浴場などの環境水の汚れの程度の指標として用いられる。 また、水道水からは「検出されてはならない」とされている。 ヒト一人が一日に排泄する糞便中に含まれる菌体数は、平均で1011から1013個である。 ただしヒトの消化管において、大腸菌が全体の微生物に占める割合は極めて少なく、ヒト腸内常在細菌の0.01%以下にすぎない(残りの大部分は、Bacteroides属やEubacterium属などの偏性嫌気性菌である) 水の浄化や汚水処理技術の分野では、E.coliの量は人間の糞便の混入の程度を示唆する ものとして、水の汚染レベルの指標としてかなり早い時期から用いられてきた。 研究に 使われているE.coliそれ自体は無害であり、栄養要求性のため研究室から出ては生きられないもので あるが、E.coliがこれらの指標に用いられるのは、他の病原性のある菌 (サルモネラなど)よりもこれらの糞便性大腸菌の方が遥かに多く 含まれるためである。 E.coliは無害であるが、いくつかのケースでは疾患の原因となることがある。 人体には、血液中や尿路系に侵入した場合に病原体となる。内毒素を産生するため、大腸菌による敗血症は重篤なエンドトキシンショックを引き起こす。 E.coliはそれぞれの特徴によって「株(strain)」と呼ばれる群に分類することができる (犬のプードルが他の犬種と分類できるように)。 それぞれ異なる動物の腸内にはそれぞれの株のE.coliが生息していることから、 環境水を汚染している糞便が人間から出たものか、鳥類から出たものかを 判別することも可能である。 E.coliの株は多数報告されており、一部では動物に害となりうる性質を持つものもある。 大部分の健康な成人の持っている株では下痢を起こす程度で 何の症状も示さないものがほとんどであるが、幼児や 病気などによって衰弱している者、あるいはある種の薬物を服用している者などでは、 特殊な株が病気を引き起こすことがあり、時として死亡に至ることもある。 E.coliの株の中でも特に強い病原性を示すものは病原性大腸菌とよばれる。食品衛生学分野では病原大腸菌ともよぶ。
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